来 歴


大地の顔


昔 記録映画で見た
アラン島の荒れた大地
長い歴史が固い岩もろとも
そこを塩づけにしてしまってから
育たない作物のために
男たちは運び続ける
一ぱいの土また一ぱいの土
鮮やかな海の色を背景に
やっと芽ぶいたささやかな緑
かろうじて生きる喜びよりも
伸びることの険しさが
先行してしまう悪い時代だった

ある旅の日に見た
海浜の荒れた風景
吹きつける烈風と
砕ける波しぶきに
洗い晒された断崖
風に運ばれてきた種子は
次の風に飛ばされてしまって
あそこに根づくものは何もない
肉のすべてをそぎ落として
独り立つことのいさぎよさ
海に向かって君臨する
巨人のイメージには
白っぽい岩だらけの大地が
ぴったり似合って見えた

アラン島に芽ぶく緑
断崖に吹き飛ばされる種子
植物はあのときのまま
記憶の海を漂い続けている
今私は
母なる大地ではなくて
貧しい母にさえなり得ない
荒れた大地を土壌に
それでも私は
頭上に緑の葉一枚掲げようとして
また私のことばは
詞花一片を咲かせようとして
ことばは塩からいアラン島の土
詩は根づかない海辺の種子
稜々たる大地の顔を
何度でもなぞっている
王者の輪郭はまだ写せない

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